キャッシュ・フロー計算書の読み方|営業CF・投資CF・財務CFの関係

損益計算書で黒字を計上しているのに、現金が減る会社があります。反対に、赤字なのに現金残高が増える会社もあります。

この違いを理解するために使うのが、キャッシュ・フロー計算書です。キャッシュ・フロー計算書には、一定期間に企業の現金及び現金同等物が、どのような活動によって増減したかが示されます。

初心者が最初に覚えたいのは、次の三つの区分です。

ただし、営業CFがプラスなら安全、投資CFがマイナスなら成長、財務CFがマイナスなら健全、というように符号だけで判断することはできません。

営業CFがプラスでも、仕入先への支払を先送りして一時的に現金を残しただけかもしれません。投資CFがマイナスでも、低収益の設備や高値づかみのM&Aへ資金を使っている場合があります。財務CFがマイナスでも、手元資金が乏しいのに借入金を返済し、自社株買いを行っていれば財務余力が低下します。

キャッシュ・フロー計算書を読むときは、次の順番で確認します。

  1. 対象期間、連結・個別、会計基準を確認する
  2. 現金及び現金同等物の期末残高と増減額を確認する
  3. 営業CFが継続的に資金を生んでいるか確認する
  4. 営業利益・純利益と営業CFの差を分解する
  5. 売上債権、棚卸資産、仕入債務などの運転資本を確認する
  6. 投資CFを設備投資、無形資産、M&A、有価証券に分ける
  7. 財務CFを借入・返済、増資、配当、自社株買いに分ける
  8. フリーキャッシュフローを目的に合う定義で計算する
  9. 貸借対照表と損益計算書へ戻って整合性を確認する
  10. 複数年、前年同期、同業他社と比較する

本記事では、日本基準を採用する一般的な事業会社の連結キャッシュ・フロー計算書を中心に、三つの区分、間接法、運転資本、設備投資、M&A、資金調達、株主還元、フリーキャッシュフロー、危険信号、業種別の注意点、日本基準とIFRSの違いまで詳しく解説します。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の企業、銘柄、業種または取引を推奨するものではありません。表示区分や科目名は、会計基準、事業目的、契約条件、重要性、企業が選択した会計方針などによって異なります。実際の投資判断では、最新の決算短信、有価証券報告書、財務諸表注記、適時開示を確認してください。

この記事の構成

キャッシュ・フロー計算書とは

キャッシュ・フロー計算書は、一定期間における現金及び現金同等物の増加・減少を、営業活動、投資活動、財務活動の三つに分けて示す財務諸表です。

英語ではStatement of Cash Flowsと呼ばれ、Cash Flow Statement、C/F、CF計算書などと略されることがあります。会計基準上の表記は「キャッシュ・フロー計算書」ですが、検索や一般的な文章では「キャッシュフロー計算書」と中点なしで書かれることもあります。

キャッシュ・フロー計算書は「一定期間」の現金の流れを示す

貸借対照表が決算日時点の資産・負債・純資産を示すのに対し、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書は一定期間の変化を示します。

財務諸表主に示すもの時間の捉え方投資家が確認すること
貸借対照表資産・負債・純資産決算日時点現金、債権、在庫、借入金、自己資本などの残高
損益計算書収益・費用・利益一定期間売上、利益率、費用構造、最終利益
キャッシュ・フロー計算書現金及び現金同等物の増減一定期間資金の獲得源、投資先、調達・返済、株主還元

たとえば、売上を計上しても代金をまだ回収していなければ、損益計算書では利益が増えても、現金は増えません。設備を現金で購入しても、購入額の全額がその期の費用になるとは限らず、損益計算書では減価償却を通じて複数期間に配分されます。

キャッシュ・フロー計算書は、このような会計上の利益と現金の動きのずれを理解するために使います。

基本式は「期首残高+増減=期末残高」

キャッシュ・フロー計算書の基本的なつながりは、次の式で表せます。

現金及び現金同等物の期首残高
+営業活動によるキャッシュ・フロー
+投資活動によるキャッシュ・フロー
+財務活動によるキャッシュ・フロー
+現金及び現金同等物に係る換算差額
+連結範囲変更・合併などによる調整
=現金及び現金同等物の期末残高

たとえば、期首残高100億円、営業CF+60億円、投資CF-80億円、財務CF+10億円、換算差額+2億円なら、期末残高は92億円です。

100億円+60億円-80億円+10億円+2億円=92億円

期末残高が減ったという事実だけでは、良し悪しは判断できません。営業活動で十分な資金を生み、将来の利益につながる設備へ投資した結果として現金が減ったなら、合理的な場合があります。一方、営業赤字を借入と資産売却で補っているなら、資金繰りの持続性に注意が必要です。

連結キャッシュ・フロー計算書を優先する

企業グループが連結財務諸表を作成している場合、投資家は原則として連結キャッシュ・フロー計算書を優先します。

連結キャッシュ・フロー計算書では、親会社と連結子会社の資金の流れを企業グループ全体として示し、グループ内部の資金移動は相殺されます。親会社が子会社へ貸し付け、子会社が親会社へ返済しただけでは、グループ外から現金を得たわけではないためです。

ただし、次の分析では個別キャッシュ・フローや親会社単体の資金状況も重要です。

連結で現金が多くても、必要な場所へ自由に移せない場合があります。現金の所在、通貨、規制、担保設定も注記や説明資料で確認します。

利益と営業キャッシュフローは同じではない

利益は、発生主義会計に基づき、現金の受払時点とは必ずしも一致しない収益と費用を対応させて計算します。一方、キャッシュ・フローは、現金及び現金同等物が実際に増減した時点を基礎にします。

代表的なずれは次のとおりです。

取引損益への主な影響現金への主な影響
掛け売上売上・利益を計上回収するまで入金なし
商品の在庫購入売れるまで費用化されない場合がある購入時に支出
設備購入原則として減価償却により期間配分購入時に投資CFの支出
減価償却費用となり利益を減らす当期の現金支出なし
引当金計上費用となる場合がある支払前なら現金支出なし
借入利益には原則直接影響しない財務CFの収入
借入金返済元本返済は費用にならない財務CFの支出
増資利益には影響しない財務CFの収入
配当当期利益の費用ではない財務CFの支出

そのため、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書のどちらか一方だけで企業を評価するのではなく、両者の差が何によって生じたかを確認します。

「現金及び現金同等物」の範囲

キャッシュ・フロー計算書が追跡するのは、貸借対照表の「現金及び預金」という科目そのものではなく、企業が会計方針として定めた現金及び現金同等物です。

現金

現金には、手元現金や要求払預金などが含まれます。要求払預金とは、必要に応じて引き出せる当座預金、普通預金などです。

現金同等物

現金同等物は、一般に次の性質を持つ短期投資です。

日本基準では、取得日から満期日または償還日までの期間が3か月以内の定期預金、譲渡性預金、コマーシャル・ペーパーなどが一般的な例として示されています。ただし、3か月という期間だけで自動的に決まるわけではなく、企業の資金管理方針と金融商品の性質を確認します。

企業は、現金同等物に含める金融商品の種類や最長期間を重要な会計方針として開示します。同じ名称の定期預金でも、取得時点の満期までの期間や使用制限によって扱いが異なる場合があります。

貸借対照表の「現金及び預金」と一致しない理由

キャッシュ・フロー計算書の期末残高と、貸借対照表の現金及び預金が一致しない代表的な理由は次のとおりです。

有価証券報告書の注記には、現金及び現金同等物の期末残高と、貸借対照表上の科目との関係が示されます。残高が一致しない場合は、その調整表を確認します。

負の現金同等物

当座借越は通常、借入による資金調達として財務活動に分類されます。ただし、当座借越契約に基づく借越限度枠を、企業が保有する現金及び現金同等物と同様に利用している場合、その当座借越は負の現金同等物を構成するものとされています。

その場合、貸借対照表では短期借入金に含まれていても、キャッシュ・フロー計算書の現金及び現金同等物残高では控除されます。

「短期借入金だからすべて負の現金同等物」と考えてはいけません。実態が通常の資金調達なら、財務CFに表示されます。

拘束性預金と利用可能な現金

会計上の現金及び現金同等物に含まれていても、すべてが自由に使えるとは限りません。海外送金規制、借入契約、担保、顧客資金の分別管理、法規制などにより、利用が制限されることがあります。

投資家は、次を区別します。

ネットキャッシュ(現金及び現金同等物から有利子負債を差し引いた金額)を計算するときも、利用制限の強い現金を機械的に有利子負債から控除すると、返済余力を過大評価する場合があります。

非資金取引はキャッシュ・フロー計算書に含まれない

現金及び現金同等物が動かない取引は、原則としてキャッシュ・フロー計算書に含まれません。

代表例は次のとおりです。

非資金取引は当期の現金を動かしませんが、将来の返済、リース料、配当、希薄化などへ影響する可能性があります。重要な非資金取引は、キャッシュ・フロー計算書の注記または財務諸表の他の箇所で確認します。

「キャッシュ・フロー計算書に出ていないから負担がない」と判断してはいけません。

キャッシュ・フロー計算書の全体構造

日本基準を採用する一般的な事業会社のキャッシュ・フロー計算書は、おおむね次の構造です。

営業活動によるキャッシュ・フロー
  税金等調整前当期純利益
  減価償却費
  減損損失
  引当金の増減
  受取利息及び受取配当金
  支払利息
  有形固定資産売却損益
  売上債権の増減
  棚卸資産の増減
  仕入債務の増減
  その他
  小計
  利息及び配当金の受取額
  利息の支払額
  法人税等の支払額・還付額
営業活動によるキャッシュ・フロー合計

投資活動によるキャッシュ・フロー
  定期預金の預入・払戻
  有形固定資産の取得・売却
  無形固定資産の取得
  有価証券・投資有価証券の取得・売却
  貸付け・回収
  子会社株式取得・売却
投資活動によるキャッシュ・フロー合計

財務活動によるキャッシュ・フロー
  短期借入金の純増減
  長期借入れ・返済
  社債発行・償還
  株式発行
  自己株式取得・処分
  リース負債返済
  配当金支払
財務活動によるキャッシュ・フロー合計

現金及び現金同等物に係る換算差額
現金及び現金同等物の増減額
現金及び現金同等物の期首残高
連結範囲変更・合併等に伴う増減
現金及び現金同等物の期末残高

実際の科目と順番は企業によって異なります。事業目的によって、一般企業では投資CFとなる貸付金や有価証券売買が、金融機関やトレーディングを主な事業とする企業では営業CFに分類される場合もあります。

三つの区分が示すこと

区分主な意味代表的な収入代表的な支出
営業CF本業などによる資金獲得力顧客からの回収、営業債権の回収仕入、人件費、経費、税金など
投資CF将来の利益獲得・資金運用への支出と回収設備売却、有価証券売却、貸付金回収、子会社売却設備・ソフトウェア取得、有価証券取得、貸付、企業買収
財務CF資金調達、返済、株主への分配借入、社債、増資、自己株式処分借入返済、社債償還、配当、自社株買い、リース元本返済

投資CFは、企業が将来の収益のために何へ資金を投じたかを示します。財務CFは、その投資や株主還元をどのように調達・返済したかを示します。

プラスとマイナスだけでは評価できない

区分プラスになりやすい場面マイナスになりやすい場面注意点
営業CF商品・サービスから現金を回収売上債権・在庫の増加、赤字、税金支払支払先送りや債権流動化で一時的に改善する場合がある
投資CF設備・有価証券・子会社を売却設備投資、M&A、有価証券取得マイナスは成長投資にも浪費にもなりうる
財務CF借入、社債、増資返済、配当、自社株買いプラスは外部調達への依存度、マイナスは返済・還元の規模を示す。いずれも事業の稼ぐ力とは別に評価する

三つの符号は、事業の成長段階、投資内容、財務余力、今後の資金需要と組み合わせて評価します。

三つの符号から見える代表的な状態

営業CF投資CF財務CFよく見られる状態主な確認点
営業資金で投資・返済・株主還元を行う成熟企業投資不足ではないか、還元が過大でないか
成長投資を営業資金と外部調達で賄う企業投資収益、借入返済能力、増資希薄化
資産売却資金と営業資金で返済・還元売却が選択と集中か、資金繰りのためか
営業、資産売却、外部調達がすべて資金流入大型投資前の調達か、資金滞留か
営業赤字と投資を借入・増資で支える成長企業や再建企業現金ランウェイ、黒字化時期、追加調達可能性
営業流出を資産売却で補いながら返済・還元資産切り売り、事業縮小、資金繰り悪化
営業流出を資産売却と外部調達で補う継続企業、再建計画、希薄化・借換え
営業・投資・返済等ですべて現金流出手元資金で何期耐えられるか、持続可能性

この表は分類の出発点にすぎません。たとえば創業期の成長企業は、顧客獲得や在庫拡大で営業CFがマイナス、設備投資で投資CFがマイナス、増資で財務CFがプラスになることがあります。将来の営業CFが改善する合理的な根拠があれば、直ちに悪いとは限りません。

一方、成熟企業が何年も営業CFマイナスを続け、資産売却と借入で配当を維持しているなら、配当の持続可能性に注意が必要です。

換算差額は営業・投資・財務のキャッシュフローではない

海外子会社が保有する外貨建て現金は、為替相場の変動によって円換算額が増減します。これは実際の入出金ではないため、営業CF、投資CF、財務CFには含めず、「現金及び現金同等物に係る換算差額」として別に示されます。

円安で換算差額がプラスになり現金残高が増えても、本業から現金を稼いだわけではありません。反対に円高で換算差額がマイナスでも、現地通貨ベースの現金が流出したとは限りません。

連結範囲の変更による残高増減

非連結子会社を新たに連結した場合などには、その子会社が保有していた現金及び現金同等物が、期首残高に加減される形で独立表示されることがあります。

企業買収による支出は、取得対価から取得した子会社の現金及び現金同等物を控除した純額が投資CFへ表示されるのが原則です。したがって、キャッシュ・フロー計算書の「子会社株式の取得による支出」だけでは、買収対価の総額や引き受けた負債は分かりません。企業結合注記と合わせて確認します。

最初の15分でキャッシュ・フロー計算書を読む順番

キャッシュ・フロー計算書は、すべての科目を同じ深さで読む必要はありません。最初は全体の資金構造を把握し、異常や重要な変化が見つかった箇所を注記まで掘り下げます。

順番確認すること判断したい内容
1対象期間、連結・個別、会計基準比較対象を間違えていないか
2期末の現金及び現金同等物手元資金が増えたか減ったか
3営業CFの金額と複数年推移本業などから継続的に資金を得ているか
4純利益・営業利益との関係利益が現金化されているか
5売上債権・在庫・仕入債務の増減運転資本に資金が滞留していないか
6投資CFの内訳設備、ソフトウェア、M&A、金融投資のどこへ使ったか
7財務CFの内訳借入・増資に依存しているか、返済・還元を行ったか
8フリーキャッシュフロー通常投資後に残る資金はどの程度か
9貸借対照表との照合債権、在庫、借入、現金残高と整合するか
10注記・適時開示一時要因、非資金取引、決算日後の変化はないか

1.対象期間を確認する

キャッシュ・フロー計算書は累計期間の数値です。3か月、6か月、9か月、12か月を混同すると判断を誤ります。

たとえば、9か月累計の営業CFを前年度12か月の営業CFと比べて「減少した」と評価することはできません。前年同期または同じ月数の期間と比較します。

また、決算期変更、連結範囲変更、会計基準変更があると、単純比較できない場合があります。

2.期末残高と増減額を確認する

まず、期首から期末まで現金及び現金同等物がいくら増減したかを見ます。そのうえで、増減が営業、投資、財務、為替のどこから生じたかを分解します。

現金が増えた場合も、営業CFによる増加なのか、借入・増資による増加なのか、資産売却による増加なのかで意味が異なります。

3.営業CFの継続性を確認する

単年度の営業CFがプラスかどうかだけでなく、少なくとも3~5年の推移を並べます。

営業CFが大きく変動する企業では、景気の良い年度だけで返済・配当能力を判断しないようにします。

4.利益との差を確認する

営業CFと純利益の差が大きい場合は、次の順番で原因を調べます。

  1. 減価償却・のれん償却などの非資金費用
  2. 減損・引当金などの非資金損益
  3. 固定資産・有価証券の売却損益
  4. 売上債権、棚卸資産、仕入債務などの運転資本
  5. 利息、配当、法人税等の受払
  6. その他の一時的な資産・負債増減

差が合理的に説明できれば、利益と営業CFが一致しないこと自体は問題ではありません。説明できない差が継続する場合は、利益の質や資金回収に注意します。

5.投資CFを一括して見ない

投資CFが-200億円でも、その内訳が生産設備-100億円、研究設備-30億円、ソフトウェア-20億円、企業買収-50億円なのか、投資有価証券-200億円なのかで意味が異なります。

将来の事業収益を生む投資、M&A、余剰資金運用、政策保有株式を分けます。

6.財務CFで資金の出所と配分を確認する

財務CFでは、借入・社債・増資による流入と、返済・配当・自社株買いによる流出を分けます。

借入金が増えた年度に自社株買いも大きければ、事業投資ではなく株主還元のために財務レバレッジを高めている可能性があります。増資で得た資金が営業赤字の補填に使われている場合は、次の資金調達までの期間を考えます。

7.フリーキャッシュフローを複数の定義で確認する

フリーキャッシュフローには統一された一つの定義がありません。企業が開示する数値と、自分で計算した数値が異なることがあります。

最低限、次を分けます。

定義を明記せず、異なる企業の「フリーキャッシュフロー」を比較しないようにします。

営業活動によるキャッシュ・フローの読み方

営業活動によるキャッシュ・フローは、商品・サービスの販売、仕入、人件費、その他の営業取引、営業債権・債務の決済などによる現金の流れを示します。投資活動と財務活動に分類されないキャッシュフローも、営業CFに含まれる場合があります。

営業CFを見る目的は、企業が外部調達へ過度に依存せず、営業能力を維持し、投資、返済、配当を行うための資金を生み出せるかを確認することです。

直接法と間接法

営業CFの表示方法には、直接法と間接法があります。

項目直接法間接法
出発点顧客からの収入、仕入支出など税金等調整前当期純利益など
表示主要な現金収入・支出を総額表示非資金項目・運転資本・投資財務関連損益を調整
長所現金の収入源・支出先を直感的に把握しやすい利益と営業CFの差を理解しやすい

直接法の例は次のようになります。

営業収入                        1,200
原材料又は商品の仕入支出         -650
人件費支出                       -250
その他の営業支出                 -120
小計                              180
利息及び配当金の受取額              5
利息の支払額                       -8
法人税等の支払額                  -37
営業活動によるキャッシュ・フロー  140

間接法は、利益から出発し、現金を伴わない損益と、営業に関係する資産・負債の増減などを調整します。

税金等調整前当期純利益            150
減価償却費                         50
減損損失                           10
受取利息及び受取配当金             -5
支払利息                            8
固定資産売却益                    -12
売上債権の増加額                  -35
棚卸資産の増加額                  -20
仕入債務の増加額                   25
その他                              9
小計                              180
利息及び配当金の受取額              5
利息の支払額                       -8
法人税等の支払額                  -37
営業活動によるキャッシュ・フロー  140

どちらの方法でも、営業CF合計は同じです。上の二つは同じ会社の同じ期間を、直接法と間接法で表示した例です。表示方法が違っても、小計、利息及び配当金の受取額、利息の支払額、法人税等の支払額、営業CF合計はすべて同じ金額になります。間接法の各調整項目は、現金収入・支出そのものをすべて直接表示しているわけではありません。利益を営業CFへ組み替えるための調整です。

小計欄は、どちらの方法でも、営業CFのうちおおむね営業損益計算の対象となった取引に係るキャッシュ・フローの合計額を意味します。小計欄より下の項目には、投資活動および財務活動以外の取引によるキャッシュ・フローと、法人税等に係るキャッシュ・フローが含まれます。

間接法は「利益に現金を足す表」ではない

間接法で減価償却費を加算し、売上債権の増加額を減算するため、各項目を現金の収入・支出と誤解しやすくなります。

しかし、減価償却費の加算は現金収入ではありません。損益計算書で利益から差し引かれた非資金費用を戻しているだけです。また、売上債権の増加額の減算は、売掛金を購入した支出ではなく、売上として認識した金額のうち、まだ回収していない部分を調整しています。

税金等調整前当期純利益から始める理由

日本基準の間接法では、税金等調整前当期純利益を出発点とし、法人税等の支払額を後段で独立して示す形式が基本です。

損益計算書の法人税等は、税効果会計や未払・前払の影響を含み、当期の現金支払額と一致しません。そこで、税金等調整前当期純利益から各項目を調整し、実際の法人税等の支払額を差し引きます。

減価償却費は加算する

減価償却費は、過去に取得した設備などの取得原価を使用期間へ配分する費用です。当期の損益計算書では利益を減らしますが、当期に同額の現金支出が発生するとは限りません。

そのため、間接法では減価償却費を加算します。

ただし、減価償却費が多いことは「現金を稼いだ」ことを意味しません。設備取得時の支出は投資CFに表れます。設備を維持するために継続的な更新投資が必要なら、営業CFから設備投資を差し引いた後の資金を見る必要があります。

営業CFが大きい
=自由に使える現金が大きい

とは限りません。

のれん償却・無形資産償却

日本基準では、のれんを原則として一定期間で償却するため、その償却額は非資金費用として営業CFの計算で加算されます。ソフトウェアやその他の無形資産の償却費も同様です。

一方、買収対価やソフトウェア開発費の支出は、取得時に投資CFへ表れます。償却費を加算するだけでなく、過去・当期にどれだけ投資CFを使ったかを確認します。

減損損失・引当金繰入額

減損損失や引当金繰入額は、損益を減らしても、計上時点で同額の現金が流出しない場合があります。そのため、間接法では非資金損益として調整されます。

ただし、非資金の損失がすべて加算されるわけではありません。営業債権の貸倒損失や棚卸資産の評価損は、売上債権・棚卸資産の増減にもすでに反映されているため、税金等調整前当期純利益へ加減算する非資金損益項目には含まれません。実務指針が挙げているのは、減価償却費、のれん償却額、貸付金に係る貸倒引当金増加額、持分法による投資損益などです。減損損失や株式報酬費用も、現金支出を伴わない費用として同様に加算されます。

また、現金支出がないから重要でないわけではありません。

当期の営業CFを押し下げなくても、将来キャッシュフローの悪化を示す場合があります。

固定資産・有価証券の売却損益を調整する

固定資産売却益は損益計算書の利益に含まれますが、売却代金の受取は投資CFへ表示されます。営業CFと投資CFへ二重に含めないよう、間接法では売却益を税金等調整前利益から減算します。

売却損の場合は、利益を減らした分を加算して戻します。

たとえば、帳簿価額30億円の設備を50億円で売却すると、損益計算書には20億円の売却益、投資CFには50億円の売却収入が表れます。

キャッシュ・フロー計算書だけで設備売却の利益額は分からないため、損益計算書と固定資産注記も確認します。

運転資本の増減を読む

営業CFと利益の差を生む重要な項目が、売上債権、棚卸資産、仕入債務などの運転資本です。

一般的な営業運転資本は、次のように計算します。

営業運転資本
=売上債権+棚卸資産+契約資産-仕入債務-契約負債など

運転資本が増えると、一般に資金が事業の中へ滞留し、営業CFを押し下げます。運転資本が減ると、一般に資金が解放され、営業CFを押し上げます。

売上債権の増加は営業CFを減らす

売掛金や受取手形などの売上債権が増えると、損益計算書では売上を計上していても、まだ現金を回収していない部分が増えます。そのため、間接法では売上債権の増加額を減算します。

例として、当期売上高が1,000億円で、売上債権が期首150億円から期末210億円へ増えたとします。

売上債権の増加額=210億円-150億円=60億円

他の条件が同じなら、営業CFを60億円押し下げます。

ただし、売上債権増加が必ず悪いわけではありません。売上成長に伴う自然な増加もあります。次を確認します。

売上債権の減少は営業CFを増やす

過去に計上した売掛金を回収すれば、売上債権が減り、営業CFは増えます。

ただし、売上低迷で新しい売掛金が発生しなくなった結果として残高が減る場合もあります。営業CF改善だけでなく、売上高と受注の推移を確認します。

棚卸資産の増加は営業CFを減らす

原材料、仕掛品、製品、商品などの棚卸資産を増やすには、仕入や製造のために資金が必要です。売れるまでは売上原価へ全額反映されない場合があるため、利益より先に現金が減ります。

棚卸資産の増加理由には、次のようなものがあります。

合理的な成長投資か、売れ残りかを区別するため、売上高、売上原価、在庫回転日数、評価損、受注残と比較します。

棚卸資産の減少は営業CFを増やす

在庫を販売し、新規仕入を抑えれば、棚卸資産が減って営業CFが増えます。

在庫適正化による改善なら好ましい場合がありますが、供給制約、仕入資金不足、生産能力低下による減少なら将来売上へ悪影響が出る可能性があります。

仕入債務の増加は営業CFを増やす

買掛金や支払手形などの仕入債務が増えると、商品・原材料を受け取っても、まだ現金を支払っていない部分が増えます。そのため、間接法では仕入債務の増加額を加算します。

しかし、仕入債務の増加による営業CF改善は、将来の支払を先送りした効果です。次を確認します。

営業CFが過去最高でも、その主因が買掛金増加なら、持続的な資金創出とは限りません。

仕入債務の減少は営業CFを減らす

過去の買掛金を支払えば、仕入債務が減って営業CFを押し下げます。

支払遅延を解消した、取引条件を改善した、仕入量が減ったなど複数の理由が考えられます。単年度のマイナスだけで評価せず、前期までの増加と合わせて確認します。

契約資産・契約負債・前受金

契約資産が増えると、収益を認識していても請求・回収条件を満たしていない部分が増え、営業CFを押し下げることがあります。

契約負債や前受金が増えると、顧客から現金を先に受け取り、商品・サービスの提供義務が残っている状態が増えるため、営業CFを押し上げます。

サブスクリプション、ソフトウェア、建設、保守契約などでは、前受金・契約負債が大きな資金源になることがあります。ただし、将来サービスを提供するコストや返金義務を伴うため、無償の資金ではありません。

その他の運転資本

営業CFでは、次の項目も増減要因になります。

「その他」の調整額が大きい場合は、貸借対照表の増減と注記を確認します。複数の異なる要因を一つにまとめると、資金の実態が見えにくくなります。

運転資本は季節性を考慮する

小売、食品、アパレル、玩具、農産物、建設などでは、特定の季節に在庫や債権が増えます。直前四半期との比較だけではなく、前年同期と比較します。

決算月だけ在庫を減らし、仕入支払を翌月へ延ばすなど、期末時点の数字が通常状態を表さない場合もあります。月次情報や複数四半期の推移があれば確認します。

利息・配当・法人税等のキャッシュフロー

利息、配当、法人税等は、会計基準と企業が選択した表示方法によって区分が異なる場合があります。企業間比較では、営業CFの金額だけでなく、採用している会計方針を確認します。

日本基準における利息・配当の表示

日本基準では、利息及び配当金について、継続適用を条件に主に次の二つの方法が認められています。

方法受取利息受取配当金支払利息支払配当金
方法1営業CF営業CF営業CF財務CF
方法2投資CF投資CF財務CF財務CF

したがって、同じ事業内容・同じ経済実態でも、企業が採用する方法によって営業CFや投資CF、財務CFの金額が異なる可能性があります。

どちらを選ぶかは企業の会計方針であり、選択した方法は毎期継続して適用しなければなりません。また、利息の受取額と支払額は相殺せず、それぞれ総額で表示します。

たとえば、支払利息100億円を営業CFに含める会社と財務CFに含める会社では、営業CFに100億円の差が生じます。企業間比較では、必要に応じて同じ分類へ組み替えます。

法人税等の支払額

日本基準では、法人税等(住民税および利益に関連する金額を課税標準とする事業税を含みます)に係るキャッシュ・フローを、営業CFの区分に「法人税等の支払額」として一括して表示します。

損益計算書の法人税等と、キャッシュ・フロー計算書の法人税等の支払額は一致しないことがあります。理由には次があります。

利益が横ばいでも、前期の高利益に対応する納税で当期営業CFが減る場合があります。単年度だけでなく、税金等調整前利益、法人税等、未払法人税等の推移を確認します。

2026年7月に公表された改正では、対象が「法人税その他の課税対象利益を基礎とする税金」へ改められました。これにより、住民税の均等割は、事業税の付加価値割・資本割と同様に、営業CFに含まれるキャッシュ・フローではあるものの「法人税等の支払額」に含めてはならないこととされました。電気供給事業、ガス供給事業、生命保険事業、損害保険事業に係る事業税も同じ扱いです。

ただし、この改正が原則として適用されるのは2028年4月1日以後に開始する連結会計年度・事業年度の期首からで、早期適用も認められています。適用開始前の期間の決算では、改正前の取扱いによる表示が用いられます。企業ごとの科目表示を確認し、損益計算書の法人税等と単純に照合しないようにします。

利息・配当を調整して比較する

企業間比較で営業CFを統一したい場合は、次のような調整を検討します。

ただし、金融機関やリース会社では、利息の受払が本業そのものです。一般事業会社と同じように除外すると、事業実態を損なう場合があります。

営業キャッシュフローの質を確認する

営業CFは実際の現金の動きを示しますが、すべてが繰り返し得られる資金とは限りません。金額だけでなく、持続性、再現性、事業成長との整合性を確認します。

純利益と営業CFを複数年で比較する

利益の現金化を確認する代表的な指標は、次のとおりです。

営業CFコンバージョン
=営業CF÷親会社株主に帰属する当期純利益

たとえば、純利益100億円、営業CF130億円なら、比率は1.3倍です。

130億円÷100億円=1.3倍

ただし、1倍を超えれば必ず良い、1倍未満なら悪いという基準ではありません。減価償却が多い設備産業では1倍を超えやすく、成長企業では売上債権や在庫増加によって1倍を下回ることがあります。赤字年度には比率自体が意味を持ちにくくなります。

単年度ではなく、3~5年累計で比較します。

また、分子の営業CFは連結ベースの金額で、分母の親会社株主に帰属する当期純利益は非支配株主の取り分を除いた金額です。非支配株主持分が大きい企業では、この比率を他社と比べるときに差が出やすくなります。

累計営業CF÷累計純利益

長期にわたり純利益が営業CFを大きく上回る場合は、債権・在庫の増加、収益認識、資産計上、引当金などを詳しく確認します。

営業キャッシュフローマージン

売上高に対する営業CFの割合を確認する方法があります。

営業CFマージン=営業CF÷売上高×100

売上高1,000億円、営業CF120億円なら12%です。

120億円÷1,000億円×100=12%

営業利益率と比較すると、利益率改善が現金創出につながっているかを確認できます。ただし、税金、利息、運転資本の季節性、企業の表示方針が含まれるため、同業・同期間で比較します。

運転資本変動前の営業キャッシュフロー

運転資本の増減で営業CFが大きく振れる企業では、運転資本変動前の資金創出力を別に確認します。

概念的には次のように考えます。

運転資本変動前営業CF
=営業CF+売上債権・棚卸資産増加による減少影響
-仕入債務・契約負債増加による増加影響など

この数値を使うと、基礎的な収益力と、資金回収・支払タイミングの影響を分けやすくなります。ただし、運転資本も事業運営に必要な資金であり、無視してよいわけではありません。

利益が増えても営業CFが減る場合

利益増加と営業CF減少が同時に起きる代表例は次のとおりです。

成長のための一時的な運転資金増加なら、将来回収できる可能性があります。しかし、回収期間の長期化や在庫滞留なら、利益の質に注意が必要です。

利益が減っても営業CFが増える場合

利益減少と営業CF増加が同時に起きる代表例は次のとおりです。

減損損失の計上や減価償却費の増加は、この一覧に入りません。利益は減りますが、間接法で同額を足し戻すため、他の条件が同じなら営業CFは変わらないからです。減損前の利益100億円・営業CF100億円の会社が減損40億円を計上すると、利益は60億円、足し戻しは40億円で、営業CFは100億円のままです。これらは営業CFを増やす要因ではなく、利益と営業CFの差を広げる要因です。課税所得が減って納税額が減れば現金は残りますが、それは税負担が実際に減るという別の効果です。

営業CF改善が持続的な収益力によるものか、過去資産の回収や支払の先送りによるものかを分けます。

売上債権のファクタリング・流動化

企業が売上債権を金融機関などへ売却し、通常の回収期日前に現金化すると、営業CFが前倒しで増えることがあります。日本基準では、営業債権のファクタリングや流動化に伴うキャッシュフローは、営業CFに分類されるのが基本です。

ファクタリングには資金回収を安定させる合理的な目的がありますが、営業CF分析では次を確認します。

営業CFが改善しても、顧客からの本来の回収速度が改善したとは限りません。

仕入債務とサプライヤーファイナンス

仕入先への支払期日を金融機関の仕組みにより延長するサプライヤーファイナンスでは、仕入債務に見える残高が実質的に資金調達の性質を持つ場合があります。

投資家は、次を確認します。

買掛金増加による営業CF改善を、そのまま本業の稼ぐ力と評価しないようにします。

前受金による営業CF改善

前受金・契約負債の増加は、顧客から先に資金を得られる強いビジネスモデルを示す場合があります。年間契約のSaaS、会員制サービス、予約販売などが例です。

一方、次の場合は注意が必要です。

営業CFが先行する事業では、契約負債の残高と将来売上の関係を確認します。

営業CFがマイナスでも直ちに悪いとは限らない

営業CFがマイナスになる合理的な場面には、次があります。

ただし、営業CFマイナスが続く企業は、借入・増資・資産売却で資金を補う必要があります。次を確認します。

営業CFがプラスでも安心とは限らない

営業CFがプラスでも、次の条件が重なる場合は注意します。

営業CFは重要ですが、投資CF、貸借対照表、利益率とセットで評価します。

投資活動によるキャッシュ・フローの読み方

投資活動によるキャッシュ・フローは、将来の利益獲得や資金運用のために、企業がどの程度の資金を支出し、どの程度回収したかを示します。

一般的な事業会社では、設備・ソフトウェア・企業買収・有価証券・貸付金などが含まれます。

有形固定資産の取得

工場、機械、店舗、物流施設、データセンター、車両、土地などの取得支出が表示されます。

投資家は、設備投資を次の目的に分けます。

キャッシュ・フロー計算書だけでは内訳が分からないことが多いため、決算説明資料、中期経営計画、設備投資計画、有価証券報告書を確認します。

設備投資額と減価償却費を比較する

代表的な比較は次のとおりです。

設備投資倍率=有形・無形固定資産取得支出÷減価償却費

取得支出120億円、減価償却費80億円なら1.5倍です。

120億円÷80億円=1.5倍

1倍を上回れば成長投資、下回れば縮小と機械的に判断することはできません。

複数年の生産能力、売上、稼働率、固定資産残高と合わせて確認します。

無形固定資産・ソフトウェアの取得

ソフトウェア、システム、開発費、コンテンツ、特許などへの支出が投資CFに表れることがあります。

損益計算書で研究開発費やシステム費用が少なく見えても、一部が資産計上され、投資CFへ移っている場合があります。次を確認します。

「営業利益率が高い」と「現金支出が少ない」は同じではありません。

有形・無形固定資産の売却

設備や土地の売却収入は投資CFのプラスです。

遊休資産を処分し、低収益事業から撤退する選択と集中なら、資本効率改善につながる場合があります。一方、営業赤字や借入返済のために、収益を生む資産を繰り返し売却しているなら、将来の稼ぐ力が低下する可能性があります。

次を確認します。

有価証券・投資有価証券の取得と売却

現金同等物に含まれない有価証券の取得・売却は、一般に投資CFへ表示されます。

事業会社では、余剰資金運用、政策保有株式、事業提携、ベンチャー投資などが含まれます。取得と売却の総額、期末残高、評価損益、保有目的を確認します。

投資CFが大幅なプラスでも、政策保有株式の売却による一時収入かもしれません。営業CF改善と混同しないようにします。

貸付けと回収

一般事業会社による貸付金支出・回収は、通常、投資CFに表示されます。

関連会社、取引先、役員・主要株主などへの貸付が大きい場合は、次を確認します。

貸付けを主な事業とする金融会社では、事業目的に応じて営業CFに分類される場合があります。

子会社株式取得・企業買収

連結範囲の変動を伴う子会社取得は、投資CFへ独立表示されます。表示額は、支払った現金対価から、取得した子会社が保有していた現金及び現金同等物を控除した純額とすることが原則です。

たとえば、買収対価100億円を現金で支払い、買収先が現金30億円を保有していた場合、キャッシュ・フロー計算書上の純支出は70億円です。

100億円-30億円=70億円

しかし、企業価値評価では次も確認する必要があります。

投資CFの70億円だけを「買収額」とみなすと、経済的負担を過小評価する場合があります。

また、支配獲得時に生じた取得関連費用のキャッシュ・フローは、投資CFではなく営業CFに記載されます。買収を行った期は、その分だけ営業CFが押し下げられます。

支配を維持した子会社株式の追加取得・一部売却

親会社が子会社への支配を維持したまま非支配株主持分を追加取得したり、一部売却したりする取引は、資本取引として財務CFに分類されます。

同じ「子会社株式の取得」でも、支配獲得を伴う初回買収は投資CF、支配継続中の持分変動は財務CFという違いがあります。科目名だけでなく、支配関係の変化を確認します。

投資CFがマイナスなら成長企業とは限らない

投資CFマイナスの原因には、次の両方があります。

将来価値を高める可能性がある投資

企業価値を損なう可能性がある投資

投資の金額ではなく、将来の売上、利益、営業CF、投下資本利益率(ROIC)にどうつながるかを追跡します。

投資CFがプラスでも良いとは限らない

投資CFプラスは、設備、有価証券、子会社などを売却した結果です。

低収益資産を売却して資金を成長事業へ再配分するなら合理的です。一方、営業資金不足を補うための資産売却なら、事業基盤が縮小する可能性があります。

複数年にわたり投資CFがプラスの場合は、資産残高、売上能力、売却益、営業CFを確認します。

財務活動によるキャッシュ・フローの読み方

財務活動によるキャッシュ・フローは、企業が事業・投資・株主還元に必要な資金をどのように調達し、どのように返済・分配したかを示します。

主な項目は、借入、社債、株式発行、借入返済、社債償還、配当、自社株買い、リース負債の返済などです。

短期借入金の増減

短期借入金は、運転資金、季節資金、一時的な資金不足などを補うために使われます。期間が短く回転が速い借換えについては、純増減額で表示されることがあります。

短期借入金が増えた場合は、次を確認します。

短期借入金の増加は財務CFのプラスですが、企業価値の増加を意味しません。将来の返済義務も同時に増えます。

長期借入れ・返済

長期借入金の借入額と返済額は、原則として総額で表示されます。借入による流入が返済を上回れば、純借入は増加します。

純借入額=借入による収入-借入金の返済支出

たとえば、長期借入れ100億円、返済60億円なら、純借入額は40億円です。

100億円-60億円=40億円

次を確認します。

財務CFでは当期の借入・返済が分かりますが、将来の満期集中は分かりません。借入金・社債の返済予定表を注記で確認します。

社債の発行・償還

社債発行は財務CFの流入、償還は流出です。転換社債型新株予約権付社債などでは、将来株式へ転換される可能性があります。

社債を分析するときは、次を確認します。

社債が株式へ転換された場合、現金を伴わない部分はキャッシュ・フロー計算書に表れないことがあります。発行済株式数と潜在株式も確認します。

株式発行・増資

公募増資、第三者割当増資、新株予約権の行使などで現金を調達すると、財務CFがプラスになります。

増資は返済不要の資金ですが、既存株主の1株当たり利益や議決権比率を希薄化させる可能性があります。次を確認します。

営業CFマイナスを増資で補う企業では、資金が尽きる前に事業が自立できるかを考えます。

配当金の支払

株主への配当金支払は、財務CFのマイナスです。損益計算書の費用ではなく、利益剰余金などから株主へ資金を分配する取引です。

配当の持続可能性を考えるときは、純利益だけでなく次を確認します。

純利益が100億円、配当総額50億円なら配当性向は50%ですが、設備更新に80億円必要で営業CFが100億円なら、設備投資後に残る資金は20億円です。差額を借入や資産売却で補っている可能性があります。

自己株式の取得・処分

自社株買いは、自己株式の取得による支出として財務CFに表示されます。自己株式を処分して現金を受け取れば、財務CFの流入です。

自社株買いは、1株当たり指標の分母、資本効率、需給へ影響する可能性があります。取得しただけでは発行済株式総数は減らず、消却して初めて減ります。ただし、次の場合は注意が必要です。

財務CFの支出額だけでなく、取得単価、取得株数、消却、株式報酬への再利用を確認します。

リース料の支払

日本基準の新しいリース会計を適用する企業では、借手の支払リース料のうち、リース負債の元本返済部分は財務CF、利息相当額は企業が採用する支払利息の表示区分に従います。リース負債に含めない短期リース、少額リース、一定の変動リース料は営業CFに分類されます。

リース開始時の使用権資産とリース負債の認識は、通常、非資金取引です。そのため、設備や店舗をリースで導入しても、開始時点の投資CFには取得額が表れない場合があります。

投資家は次を確認します。

会計基準の初度適用で営業CFと財務CFの分類が変わる場合、実際の総支払額が同じでも、営業CFが改善して見えることがあります。適用前後の比較では分類変更を調整します。

非支配株主との取引

子会社が非支配株主へ支払う配当や、非支配株主が子会社増資を引き受けた払込額は、財務CFへ表示されます。

また、親会社が支配を維持したまま子会社株式を追加取得・一部売却する取引も、財務CFに分類されます。親会社株主に帰属する資金だけでなく、非支配株主持分との資本取引を確認します。

財務CFがプラスの場合

財務CFプラスは、返済・配当・自社株買いより、借入・社債・増資による調達が大きい状態です。

合理的な例は次のとおりです。

注意が必要な例は次です。

財務CFがマイナスの場合

財務CFマイナスは、資金調達より返済・配当・自社株買いが大きい状態です。

営業CFで十分な資金を生み、余剰資金を返済・還元しているなら、財務健全化や株主還元を示すことがあります。一方、営業CFが弱いのに多額の返済・還元を行えば、現金残高が急減する可能性があります。

財務CFマイナスを自動的に健全と評価せず、営業CF、投資CF、期末現金、今後の返済予定を確認します。

フリーキャッシュフローの計算方法

フリーキャッシュフロー(FCF)は、企業が事業を運営し、必要な投資を行った後に残る資金を評価するための概念です。

ただし、会計基準で一つの計算式が定められた指標ではありません。企業、情報サイト、分析者によって定義が異なります。

定義1 営業CF+投資CF

決算短信などで見かける簡便な定義です。

フリーキャッシュフロー
=営業活動によるキャッシュ・フロー
+投資活動によるキャッシュ・フロー

投資CFは通常マイナスで表示されるため、実質的には営業CFから投資CFの純支出を差し引きます。

営業CF100億円、投資CF-70億円なら、FCFは30億円です。

100億円+(-70億円)=30億円

この方法は簡単ですが、投資CFに次が含まれるため、事業の通常投資後の資金を表さない場合があります。

企業間比較では内訳を分解します。

定義2 営業CF-設備投資

事業の有形・無形固定資産取得後の資金を見る方法です。

設備投資後フリーキャッシュフロー
=営業CF-有形固定資産取得支出-無形固定資産取得支出

営業CF100億円、有形固定資産取得60億円、無形固定資産取得10億円なら30億円です。

100億円-60億円-10億円=30億円

M&Aや有価証券売買を除いて、通常の事業投資を評価しやすい一方、維持投資と成長投資を区別していません。

定義3 維持更新投資後のフリーキャッシュフロー

企業が現在の収益力を維持するために必要な投資だけを差し引く考え方です。

維持更新投資後FCF
=営業CF-維持更新設備投資

残りは、成長投資、M&A、返済、配当、自社株買いなどへ配分できる資金と考えます。

ただし、企業は維持投資と成長投資を明確に分けて開示しないことが多く、分析者の推定が必要です。減価償却費を維持投資の代用とする方法もありますが、資産価格、技術革新、設備年齢、土地、リースなどにより実額と異なります。

定義4 企業価値評価で使うFCFF

企業全体へ帰属するフリーキャッシュフローは、FCFF(Free Cash Flow to Firm)と呼ばれます。代表的な計算の一つは次のとおりです。

FCFF
=税引後営業利益
+減価償却費等
-設備投資
-運転資本増加額

税引後営業利益
=営業利益×(1-実効税率)

FCFFは、債権者と株主の両方へ帰属する事業キャッシュフローを考え、加重平均資本コストで割り引くDCF法などに使われます。

実際には、非事業資産、一時損益、リース、研究開発費、M&A、税率などを調整します。

定義5 株主に帰属するFCFE

株主へ帰属するフリーキャッシュフローは、FCFE(Free Cash Flow to Equity)と呼ばれます。代表的な計算の一つは次のとおりです。

FCFE
=営業CF-設備投資+純借入額

純借入額
=新規借入・社債発行-借入返済・社債償還

この簡略式は、営業CFが利息の支払を差し引いた後の金額であること、つまり利息の支払を営業CFに表示する方法を採っていることを前提にしています。利息の支払を財務CFへ表示する企業では、営業CFに利息が反映されていないため、利息の支払額を別に差し引きます。すでに営業CFに含まれている企業で重ねて差し引くと、二重に控除することになります。

FCFEは、利息支払や借入の増減を反映した株主向けの資金を考え、株主資本コストで割り引く評価に使われます。

ただし、借入を増やせば短期的にFCFEが増えるため、財務リスクも同時に評価します。

どのFCFを使うか

目的適した考え方注意点
決算の全体把握営業CF+投資CFM&A・有価証券・資産売却の影響が大きい
通常事業の資金創出営業CF-有形・無形固定資産取得維持投資と成長投資を区別しない
配当余力維持投資後FCF維持投資額の推定が必要
企業価値評価FCFF税率、運転資本、非事業資産などの調整が必要
株主価値評価FCFE借入政策で大きく変動する

分析では、計算式と使用目的を必ず書き残します。

FCFがマイナスでも悪いとは限らない

FCFがマイナスになる合理的な例は次のとおりです。

ただし、投資後に売上、利益、営業CF、ROICが改善しなければ、資金を消費しただけになる可能性があります。投資計画の事後検証が必要です。

FCFがプラスでも良いとは限らない

FCFプラスの背景が次の場合は注意します。

FCFは「残った現金」ですが、将来競争力を犠牲にして生み出した可能性もあります。

配当・自社株買いのカバレッジ

株主還元の持続可能性は、次のように確認できます。

株主還元カバレッジ
=維持更新投資後FCF÷(配当支払額+自社株買い支出)

FCF80億円、配当40億円、自社株買い20億円なら約1.33倍です。

80億円÷(40億円+20億円)=約1.33倍

1倍未満が続く場合、現金取り崩し、借入、資産売却で還元を補っている可能性があります。ただし、大型の一時的自社株買いでは単年度の1倍未満が直ちに問題とは限りません。

設備投資カバレッジ

設備投資カバレッジ=営業CF÷有形・無形固定資産取得支出

営業CF150億円、固定資産取得100億円なら1.5倍です。

150億円÷100億円=1.5倍

1倍を下回れば、設備投資を営業CFだけで賄えていない状態です。借入・増資・手元現金を使うこと自体は悪くありませんが、投資回収と返済計画を確認します。

キャッシュ・フロー計算書を損益計算書・貸借対照表とつなげる

キャッシュ・フロー計算書は単独で読むより、損益計算書と貸借対照表へ戻って確認することで情報価値が高まります。

純利益から営業CFへのつながり

概念的には、次のように考えます。

純利益
+非資金費用
-非資金収益
±運転資本の増減
±投資・財務に関連する損益の組替え
±税金・利息等の受払差
=営業CF

利益と営業CFの差がどの科目で生じたかを説明できれば、利益の現金化を評価できます。

貸借対照表の増減と営業CF

売上債権、在庫、仕入債務などの期首・期末残高は、営業CFの調整項目と関係します。

ただし、単純な差額とキャッシュ・フロー計算書の増減額が一致しない場合があります。理由には次があります。

差額が合わないときは注記を確認します。

設備投資と固定資産残高

有形固定資産残高の変化は、おおむね次の要因で決まります。

期末固定資産残高
=期首残高
+取得
+企業買収等による増加
-減価償却
-売却・除却
-減損
±為替換算等

投資CFの設備取得額だけでは、固定資産がどの程度増えたか分かりません。固定資産明細と照合します。

借入金残高と財務CF

有利子負債残高も、財務CFの純借入額と一致しない場合があります。

財務CFだけで負債増減を説明できない場合は、借入金・社債・リース注記を確認します。

現金が増えた理由を分解する

現金が増えたという事実だけでは、増加の意味を判断できません。次の二社を比べます。

項目A社B社
純利益100億円100億円
営業CF150億円30億円
投資CF-80億円-10億円
財務CF-50億円+100億円
換算差額等0億円0億円
現金増減+20億円+120億円

B社はA社より現金が大きく増えていますが、その主因は財務CF、つまり外部調達です。A社は営業CFから投資と返済・還元を行ったうえで現金を増やしています。

現金残高の増加額だけでは、資金創出力を判断できません。

数値例でキャッシュ・フロー計算書を分析する

ここでは、架空の製造業「甲社」を例に、損益計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書をつなげて読みます。実在する企業とは関係ありません。金額はすべて億円です。

損益計算書の概要

項目前期当期増減率
売上高1,0001,180+18.0%
営業利益100135+35.0%
税金等調整前当期純利益90140+55.6%
親会社株主に帰属する当期純利益6595+46.2%

売上高と各段階利益は増加しています。営業利益率も、前期の10.0%から当期の約11.4%へ改善しました。

前期営業利益率=100÷1,000×100=10.0%

当期営業利益率=135÷1,180×100≒11.4%

なお、この例では、営業利益135億円に受取利息及び受取配当金2億円を加え、支払利息8億円を差し引き、為替差益などその他の営業外収益9億円を加えて、経常利益は138億円です。さらに固定資産売却益12億円を加え、減損損失10億円を差し引いて、税金等調整前当期純利益は140億円になります。営業利益から税金等調整前当期純利益までの差がどの項目で生じたかは、このあと見る営業活動によるキャッシュ・フローの調整項目と対応します。

損益計算書だけを見ると、増収増益で収益性も改善しており、好調に見えます。

貸借対照表の主な変化

項目前期末当期末増減
現金及び預金200145-55
売上債権150210+60
棚卸資産120165+45
仕入債務100130+30
有利子負債180245+65

利益は増えている一方、現金は55億円減少し、有利子負債は65億円増えています。売上債権と棚卸資産の増加も目立ちます。なお、この例の有利子負債は借入金を指し、リース負債は含めていません。また、貸借対照表の現金及び預金と、キャッシュ・フロー計算書の現金及び現金同等物の期末残高は一致しているものとしています。実際の企業では、預入期間の長い定期預金や使途制限のある預金の扱いによって、両者が一致しないことがあります。

営業活動によるキャッシュ・フロー

項目当期
税金等調整前当期純利益140
減価償却費+50
減損損失+10
受取利息及び受取配当金-2
支払利息+8
固定資産売却益-12
売上債権の増加-60
棚卸資産の増加-45
仕入債務の増加+30
契約負債の増加+8
その他-1
小計126
利息及び配当金の受取額+2
利息の支払額-8
法人税等の支払額-32
営業活動によるキャッシュ・フロー88

税金等調整前当期純利益140億円に、減価償却費や減損損失などの非資金費用を加える一方、売上債権と棚卸資産の増加が合計105億円の資金流出要因になっています。仕入債務と契約負債の増加が一部を補っていますが、営業CFは88億円にとどまりました。

純利益に対する営業CFの比率は、約0.93倍です。

営業CF÷純利益=88÷95≒0.93倍

1年だけで良否を決めることはできませんが、純利益を下回る営業CFが続くなら、利益の現金化に注意が必要です。

営業CFマージンは約7.5%で、営業利益率約11.4%より低くなっています。

営業CFマージン=88÷1,180×100≒7.5%

ここで重要なのは、売上債権と棚卸資産が増えた理由です。

営業CFの減少理由を科目ごとに確認しなければ、成長投資に伴う一時的な運転資金需要なのか、収益の質が悪化しているのかを区別できません。

投資活動によるキャッシュ・フロー

項目当期
有形固定資産の取得-90
無形資産・ソフトウェアの取得-20
有形固定資産の売却+15
子会社株式の取得-60
投資有価証券の取得-10
投資有価証券の売却+5
投資活動によるキャッシュ・フロー-160

設備と無形資産への投資額は合計110億円です。減価償却費50億円に対する倍率は2.2倍になります。

設備・無形資産投資額÷減価償却費=110÷50=2.2倍

設備更新だけでなく、生産能力の増強や新製品開発へ積極投資している可能性があります。ただし、投資額が大きいこと自体を良いとも悪いとも判断できません。投資後の売上、利益、資本効率が計画どおり伸びるかを追跡します。

子会社取得による60億円の流出もあります。買収先が将来の利益と営業CFへ寄与するか、のれんが過大ではないか、統合費用や追加投資が必要ではないかを確認します。

財務活動によるキャッシュ・フロー

項目当期
借入れによる収入+120
借入金の返済-55
リース負債の返済-10
配当金の支払い-25
自己株式の取得-15
財務活動によるキャッシュ・フロー+15

借入れによる収入120億円から返済55億円を差し引くと、借入金の純増は65億円です。

借入金純増=120-55=65億円

配当と自社株買いによる株主還元は合計40億円ですが、営業CF88億円から設備・無形資産投資110億円を差し引いたフリーキャッシュフローは22億円のマイナスです。

営業CF-設備・無形資産投資=88-110=-22億円

この年度は、本業が生む現金だけでは設備投資と株主還元を同時に賄えていません。借入金の増加によって、買収・投資・還元の一部を補っている構図です。

借入れを使った成長投資が将来の収益を高めるなら合理的な場合があります。一方、投資成果が現れないまま配当や自社株買いを続けると、財務余力が低下します。

現金残高までつなげる

項目当期
営業CF+88
投資CF-160
財務CF+15
現金及び現金同等物に係る換算差額+2
現金及び現金同等物の増減額-55
期首残高200
期末残高145

現金増減額=88-160+15+2=-55億円

期末残高=200-55=145億円

営業CFは黒字ですが、投資CFの流出が大きく、財務CFの流入を加えても現金が減少しています。

フリーキャッシュフローの定義で結果が変わる

一般的な二つの計算方法では、次のようになります。

営業CF-設備・無形資産投資=88-110=-22億円

営業CF+投資CF=88+(-160)=-72億円

後者には、子会社取得や投資有価証券の売買も含まれるため、より大きなマイナスになります。どちらの数値を使うかによって結論が変わるため、「フリーキャッシュフローがマイナス」とだけ書かず、定義と内訳を示します。

この企業をどう評価するか

架空の甲社のこの決算から、直ちに「危険」「成長企業」と断定することはできません。投資家が確認すべき論点は次のとおりです。

  1. 売上債権と在庫の増加は、翌期に回収・販売されるか
  2. 営業CFは利益成長に追いつくか
  3. 110億円の設備・無形資産投資は売上と利益を増やすか
  4. 買収先は計画どおり営業CFを生むか
  5. 借入金増加後も返済能力と財務制限条項に余裕があるか
  6. 投資負担が大きい期間に40億円の株主還元を続ける合理性があるか
  7. 現金145億円で、今後の運転資金・返済・追加投資を賄えるか

翌期に売上債権と在庫が現金化され、設備投資と買収が利益・営業CFを押し上げれば、当期の現金流出は成長のための先行投資だったと評価できます。反対に、在庫が滞留し、買収先の収益が伸びず、借入れが増え続けるなら、増益決算の裏側で財務リスクが高まっていたことになります。

キャッシュフローで見落としたくない危険信号

一つの項目だけで問題企業と判断することはできません。しかし、次の状態が継続する、または複数重なる場合は、原因を詳しく調べる必要があります。

1.黒字なのに営業CFのマイナスが続く

創業期や急成長期には運転資金が先行することがありますが、成熟企業で純利益が黒字なのに営業CFのマイナスが続く場合、売上の回収、在庫、支払い条件、利益認識などを確認します。

2.利益が増えているのに営業CFが減っている

会計上の利益成長が現金増加につながっていません。売上債権、契約資産、棚卸資産、引当金などの変化を分解します。

3.売上債権の増加率が売上成長率を大きく上回る

回収期間の長期化、販売条件の緩和、期末の押し込み販売、顧客の支払い能力低下などの可能性があります。売上債権回転日数も確認します。

4.契約資産や未収収益が急増する

履行義務を満たして売上を認識していても、請求権が確定していない金額が増えている場合があります。契約条件、検収、請求時期、回収実績を確認します。

5.棚卸資産が売上高や売上原価より速く増える

需要増への備蓄だけでなく、販売不振、過剰生産、陳腐化、評価損の先送りが疑われます。商品別・地域別の在庫と評価損を確認します。

6.仕入債務の増加だけで営業CFが改善している

取引規模の拡大による自然な増加なら問題とは限りません。しかし、支払サイトの長期化や資金繰り悪化によって支払いを遅らせている場合、改善は持続しません。

7.ファクタリングや債権流動化で営業CFを押し上げている

売上債権を売却すれば当期の現金回収は早まりますが、継続利用には手数料がかかり、翌期以降の回収原資を先取りしている場合があります。遡及義務、継続的関与、利用残高を確認します。

8.サプライヤー・ファイナンスの利用が増えている

金融機関等を介して仕入先への支払いを延ばす仕組みでは、見かけ上の営業CFや仕入債務が改善することがあります。実質的な金融負債に近いか、分類と注記を確認します。

9.法人税等の支払額が利益に比べて長期間小さい

繰越欠損金、税額控除、納付時期のずれなど合理的な理由もあります。一方、税務上の一時差異、海外子会社からの資金移動制約、将来の納税負担を確認する必要があります。

10.「その他」の調整額が大きい

営業CFの「その他」が利益や営業CFに対して重要な金額なら、注記や補足資料で内容を探します。複数項目をまとめた表示は、持続性の判断を難しくします。

11.運転資本の回収だけでフリーキャッシュフローが改善する

在庫削減や債権回収は重要ですが、残高には下限があり、毎年同じ規模で現金を生み続けることはできません。恒常的な収益力と一時的な回収効果を分けます。

12.設備投資が減価償却費を長期間大きく下回る

成熟企業では合理的な場合がありますが、設備の老朽化、保守投資の不足、将来の競争力低下につながる可能性があります。生産能力、稼働率、修繕費、設備年齢を確認します。

13.巨額の設備投資が続くのに利益・営業CFが増えない

投資回収が遅れている、需要予測が外れた、設備稼働率が低い、建設費が上振れした可能性があります。投資案件ごとの稼働時期と収益目標を追跡します。

14.ソフトウェア・開発費などの資産計上が急増する

支出を費用ではなく資産として計上すると、当期利益が高く見える場合があります。無形資産取得の投資CF、償却期間、減損実績、研究開発費との関係を確認します。

15.資産売却で投資CFの黒字を繰り返す

不要資産の整理は合理的ですが、事業が生む現金ではありません。売却益が利益も押し上げている場合、利益とキャッシュフローの双方から一時要因を除きます。

16.M&Aを繰り返すのに営業CFが改善しない

買収による売上・利益増加だけでなく、買収対価、取得した現金、のれん、統合費用、追加投資、買収後の営業CFを確認します。

17.買収支出が純額表示のため小さく見えている

連結子会社取得の表示額は、支払対価から取得時に引き継いだ現金等を控除した純額で示されるのが原則です。表示額だけでは企業価値や買収総額を把握できません。

18.配当・自社株買いを借入れで賄い続ける

一時的な資本構成の調整なら合理的な場合がありますが、本業の現金創出力を上回る還元が続けば、負債と金利負担が増えます。

19.短期借入金で長期投資を支える

返済期限の短い資金に依存して設備投資や買収を行うと、借換え環境の悪化に弱くなります。返済期限の分散、コミットメントライン、財務制限条項を確認します。

20.営業CFの赤字を増資で補い続ける

研究開発型企業や創業期企業では資金調達が必要ですが、資金使途、現金ランウェイ、次回調達の時期、1株当たり希薄化を確認します。

21.現金が増えている理由が外部調達だけである

現金残高の増加だけでは安全性を評価できません。財務CFの借入れ・増資によるものなら、返済義務や希薄化を伴います。

22.現金を伴わない重要な取引が行われている

リース契約、株式を対価とする買収、転換社債の株式転換などは、当期の現金移動を伴わず、キャッシュ・フロー計算書本体に表れないことがあります。注記を確認します。

23.為替換算差額だけで現金が増えている

外貨建て現金の円換算額は為替で変わります。換算差額は営業活動の成果ではありません。海外現金を国内へ送金できるか、現地規制や税負担も確認します。

24.使途制限のある現金が多い

担保、法規制、顧客資産の分別管理、海外送金制限などにより、連結上は現金でも自由に使えない場合があります。現金同等物の内訳と制限事項を確認します。

25.期末だけ運転資本が大きく改善する

期末前の在庫圧縮、債権回収、支払い延期によって、一時的に営業CFを改善している場合があります。四半期推移、月次情報、翌期首の反動を確認します。

26.分類方針の変更で前年との比較が難しくなっている

利息・配当、リース、特定取引の分類変更や会計方針変更によって、営業CF・投資CF・財務CFの見え方が変わる場合があります。比較情報が組み替えられているか、注記を確認します。

危険信号は、売買の自動的な結論ではありません。原因を調べ、将来の現金創出力に与える影響を評価するための出発点です。

業種によってキャッシュフローの見方は変わる

営業CFがプラスか、投資CFがマイナスかという符号だけでは、企業を比較できません。必要な運転資本、設備投資、売上認識、資金調達の仕組みは業種によって異なります。

製造業

製造業では、売上債権、棚卸資産、仕入債務と設備投資を重点的に確認します。

半導体、化学、鉄鋼などの設備集約型産業では、景気後退時にも設備投資や維持費が必要になる場合があります。好況期の営業CFだけで返済能力を判断せず、過去の不況期も確認します。

小売業・外食業

現金販売が多い小売・外食では、売上債権が比較的少なく、仕入債務や前受金によって運転資本がマイナスになる場合があります。

新規出店が止まればフリーキャッシュフローが増えることがありますが、それが成熟化や成長余地の低下を意味する場合もあります。出店投資を抑えた結果と、本業の改善を区別します。

SaaS・サブスクリプション企業

年額契約などで料金を先に受け取る企業では、契約負債・前受収益の増加が営業CFを押し上げることがあります。

契約負債の増加は成長局面で有利な資金源になりますが、成長率が低下すると増加効果も縮小します。営業CFから契約負債増加や株式報酬を除いた場合でも、事業が現金を生んでいるかを確認します。

建設業・プラント・受注産業

長期工事では、工事の進捗、請求、入金の時期が一致しません。

一つの大型案件で営業CFが大きく振れるため、単年度の符号より複数年累計で確認します。利益は計上されていても、請求・入金が先なら契約資産が増え、営業CFが弱くなることがあります。

不動産業

販売用不動産は棚卸資産に含まれ、物件取得が営業CFの大きなマイナスとして現れる場合があります。一般企業の在庫増加と同じ感覚で直ちに悪化と判断できません。

開発型企業では営業CFが大きく変動するため、物件パイプライン、含み益、LTV(借入金÷物件評価額)、利払い能力、資金調達期間を併せて確認します。

総合商社・卸売業

取引額が大きい商社・卸売業では、売上債権、棚卸資産、仕入債務による運転資金変動が営業CFを大きく左右します。

商品価格上昇局面では同じ数量でも在庫や債権残高が膨らみ、利益が増えても営業CFが悪化することがあります。価格要因と数量要因を分けます。

医薬品・バイオ企業

医薬品企業では、研究開発費、導入契約、マイルストーン支払い、ライセンス収入、M&Aがキャッシュフローへ大きく影響します。

バイオ企業では、承認前に営業CFの赤字が続くことがあります。その場合は、現金残高、年間資金流出額、資金調達可能性、開発失敗時の残存価値を確認します。

通信・電力・鉄道などの設備集約型事業

安定した営業CFを生む一方、ネットワークや発電・送配電・車両・線路などへの多額の投資が必要です。

営業CFが大きくても、維持投資を差し引いた自由資金は限定される場合があります。減価償却費より設備投資が少ない状態が続くときは、更新不足がないかを確認します。

航空・海運・ホテルなど景気変動の大きい業種

固定費が大きく、需要や運賃・客室単価の変化によって営業CFが急変します。

好況期の営業CFだけで借入返済や株主還元を設計すると、景気後退時に資金繰りが悪化する可能性があります。景気サイクルを通じた平均的なキャッシュフローを見ます。

銀行・証券・保険などの金融業

金融業では、預金、貸出金、有価証券、保険契約などが本業そのものであり、一般事業会社と同じ営業CF・投資CFの意味にはなりません。

銀行では預金の増減や貸出の実行・回収、証券会社ではトレーディング資産、保険会社では保険料収入・保険金支払い・運用資産の売買が巨額になります。そのため、一般企業向けの「営業CFがプラスなら良い」という基準は適用しにくく、次を重視します。

金融業は業種固有の財務指標と規制開示を優先します。

日本基準とIFRSでキャッシュフロー表示はどう違うか

日本基準とIFRSはいずれも、キャッシュフローを営業活動、投資活動、財務活動の三つに区分し、営業CFについて直接法または間接法を認めています。しかし、利息・配当やリース支払いなど、分類方針が異なる場合があります。

論点日本基準IFRSでの基本的な考え方
区分営業・投資・財務営業・投資・財務
営業CFの表示直接法または間接法直接法または間接法
間接法の出発点通常は税金等調整前当期純利益IFRS第18号適用後は営業利益が出発点
利息・配当継続適用を前提に二つの表示方法を選択IFRS第18号適用後は企業の主たる事業に応じた分類を適用
法人所得税法人税等(住民税・利益に関連する事業税を含む)は営業CFに一括表示。2028年4月1日以後に開始する年度からは対象範囲が改まる原則として営業CF。特定の投資・財務取引に具体的に識別できる場合は該当区分
非資金取引本体に含めず、重要な場合は注記本体に含めず、必要な情報を開示
外貨換算換算差額を区分して調整換算差額を区分して調整

表示区分が違えば、同じ経済実態でも営業CFや財務CFの金額が異なることがあります。企業間比較では、採用会計基準と分類方針を確認します。

日本基準における利息・配当の二つの表示方法

日本基準では、継続適用を条件として、代表的には次の二つの方法があります。

項目方法1方法2
利息・配当金の受取額営業CF投資CF
利息の支払額営業CF財務CF
配当金の支払額財務CF財務CF

したがって、企業Aが利息支払いを営業CF、企業Bが財務CFへ表示していれば、事業の資金創出力が同じでも営業CFに差が出ます。比較するときは必要に応じて組み替えます。

IFRS第18号適用後の変更

IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」は、原則として2027年1月1日以後に開始する事業年度から適用され、早期適用も認められています。同基準の適用に伴い、IAS第7号のキャッシュ・フロー計算書にも変更が加えられます。

間接法では、営業CFの調整を営業利益から開始することになります。あわせて、利息および配当に係るキャッシュ・フローの分類についても新しい要求が加えられます。

具体的な区分は改正後のIAS第7号の定めによります。また、金融業や、顧客への融資・特定資産への投資が主たる事業である企業には、事業内容に応じた取扱いがあります。IFRS適用企業の利息・配当がどの区分に表示されているかは、各社の連結キャッシュ・フロー計算書と会計方針の注記で確認してください。

IFRS適用企業を時系列で比較するときは、IFRS第18号の適用年度に分類や間接法の出発点が変わっていないかを確認します。

リース取引の表示

リース取引では、会計基準と契約の種類によって、支払いが営業CFと財務CFへ分かれる場合があります。

日本基準の新リース会計基準は、原則として2027年4月1日以後に開始する事業年度から適用され、2025年4月1日以後に開始する事業年度から早期適用できます。同基準の適用後のキャッシュ・フロー計算書上の区分は、連結キャッシュ・フロー計算書等の実務指針が定めています。借手の支払リース料のうち元本返済額部分は財務CFに記載し、利息相当額部分は企業が採用した支払利息の表示区分に従います。リース負債に含めていない短期リースのリース料、少額リースのリース料、変動リース料は、営業CFに記載します。

新基準の適用により、従来は営業CFに含まれていた賃借料の一部が財務CFへ移り、営業CFが増えたように見える場合があります。経済的な支払総額が改善したとは限らないため、適用前後ではリース支払総額を組み替えて比較します。

のれん・無形資産と営業CF

日本基準では、のれんの償却費が費用計上されるため、間接法の営業CFでは非資金費用として加算されます。IFRSではのれんを定期償却せず、減損損失が発生した場合に非資金費用として調整されます。

この違いにより、日本基準企業とIFRS企業では純利益と営業CFの差が異なって見える場合があります。営業CF自体だけでなく、出発点となる利益と調整項目を確認します。

四半期・中間期のキャッシュフローを読むときの注意点

日本株の決算では、すべての四半期に同じ詳しさのキャッシュ・フロー計算書が掲載されるとは限りません。年度、半期、第1・第3四半期で開示範囲を確認します。

通期と半期を基準に確認する

有価証券報告書の連結財務諸表では、通期のキャッシュ・フロー計算書を確認できます。半期報告書では、中間連結キャッシュ・フロー計算書を確認します。

第1・第3四半期の決算短信では、キャッシュ・フロー計算書を作成しない企業があります。「期中財務諸表に関する会計基準」は、6か月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合に、中間会計期間(通常は上期)を除いて期中キャッシュ・フロー計算書の開示を省略できると定めています。

省略されていても、何も分からなくなるわけではありません。同じ会計基準は、省略した場合に、期首からの累計期間に係る有形固定資産および無形固定資産(のれんを除く)の減価償却費と、のれんの償却額を注記することとしています。第1・第3四半期でも、この注記から非資金費用の規模は確認できます。

キャッシュ・フロー計算書がない四半期に、損益計算書と貸借対照表だけから営業CFを正確に再現することはできません。企業買収、為替換算、非資金取引、科目振替などが含まれるためです。

累計値と単独四半期を区別する

キャッシュ・フロー計算書は、通常、期首から当該期末までの累計値です。

たとえば、第2四半期累計の営業CFが120億円、第1四半期累計が50億円で、両資料の会計方針と連結範囲が同じなら、第2四半期単独は概算70億円です。

第2四半期単独営業CF=第2四半期累計120-第1四半期累計50=70億円

同様に、第3四半期累計と第2四半期累計が開示されていれば、第3四半期単独を計算できます。ただし、次の変化がある場合は単純差額の解釈に注意します。

第1・第3四半期にキャッシュ・フロー計算書を省略している企業では、単独四半期の正確な計算はできません。

前四半期より前年同期を優先する場面がある

納税、賞与、配当、在庫積み増し、季節商材の仕入れ、工事の入金などは特定時期へ偏ります。そのため、半期営業CFを直前半期と比較するだけでは、季節要因を事業悪化と誤認する場合があります。

原則として、次の順序で比較します。

  1. 前年同期
  2. 過去3~5年の同時期
  3. 通期計画・会社説明
  4. 直前四半期または直前半期

キャッシュフローの「進捗率」は慎重に使う

営業CFには、利益以上に運転資本や納税時期の影響が出ます。上期営業CFが前年通期の50%だから、通期も同じペースになるとは限りません。

特に次の企業では、単純な進捗率が参考になりにくくなります。

通期予想にキャッシュフロー計画が示されていない場合は、運転資本、設備投資、借入返済、配当予定から自分でシナリオを作ります。

キャッシュ・フロー計算書が省略されているときの代替確認

完全な代替にはなりませんが、次の項目から資金の方向性を推測できます。

ただし、貸借対照表の前期末との差額をそのまま現金収支とみなしてはいけません。正式なキャッシュ・フロー計算書が開示されたら、推測との差を検証します。

キャッシュフロー分析の実務手順

企業を比較するときは、毎回同じ手順で数値を整理すると、都合のよい項目だけを見ることを防げます。

ステップ1 会計基準・対象期間・連結範囲を確認する

最初に次を記録します。

この前提が違う企業を、そのまま比較しないようにします。

ステップ2 3~5年分の三つのCFを並べる

最低限、次を表にします。

項目3期前2期前前期当期
営業CF
投資CF
財務CF
換算差額等
現金増減額
期末現金同等物

単年度の異常値が、成長投資、景気循環、M&A、一時的な運転資本変動のどれかを見分けやすくなります。

ステップ3 利益から営業CFへのブリッジを作る

間接法の調整項目を、次の四群に分けます。

  1. 非資金費用・収益
  2. 運転資本
  3. 投資・財務に関係する損益の組替え
  4. 利息・配当・法人税等の受払い
区分主な項目持続性の考え方
非資金項目減価償却、のれん償却、減損、引当金、株式報酬、持分法投資損益毎期発生するものと一時項目を分ける
運転資本債権、在庫、債務、契約資産・負債成長要因と回収悪化を分ける
組替え固定資産・有価証券の売却損益、為替差損益投資・財務CFとの重複を避ける
受払い利息、配当、法人税等表示方針と支払時期を確認する

ステップ4 運転資本を日数で確認する

金額の増減だけでなく、売上や売上原価に対する回転日数を計算します。

売上債権回転日数=平均売上債権÷売上高×365日

棚卸資産回転日数=平均棚卸資産÷売上原価×365日

仕入債務回転日数=平均仕入債務÷売上原価等×365日

キャッシュ・コンバージョン・サイクル=売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転日数

企業の開示科目や原価構造によって分母を調整します。回転日数の悪化が季節性か構造変化かを、前年同期・同業他社と比較します。

ステップ5 投資CFを維持・成長・買収に分ける

投資CFを一括して扱わず、可能な範囲で次に分けます。

維持投資額は企業が明示しないことも多く、推定には幅があります。設備年齢、能力増強計画、修繕費、減価償却費、会社説明を使い、断定せずレンジで考えます。

ステップ6 財務CFから資金調達と資本配分を読む

次を別々に集計します。

「借入金返済」と「新規借入れ」を相殺した純額だけでなく、総額を見ます。巨額の借換えを繰り返す企業では、純増が小さくても借換えリスクがあります。

ステップ7 フリーキャッシュフローを複数定義で計算する

少なくとも次を並べます。

FCF①=営業CF+投資CF

FCF②=営業CF-有形・無形固定資産の取得額

FCF③=営業CF-推定維持投資額

M&Aが多い企業では、FCF①とFCF②の差が大きくなります。株主還元余力を考えるなら、維持投資後の現金、債権者を含む企業価値評価ならFCFFなど、目的に合う定義を使います。

ステップ8 一時要因を調整する

一時要因の例は次のとおりです。

調整前と調整後の両方を残します。主観的な調整で都合よく良い数値を作らないよう、根拠と出所を記録します。

ステップ9 将来12か月の資金繰りを試算する

過去のキャッシュフローだけでなく、将来の支払いを確認します。

直近の期末現金 +予想営業CF +実行を見込む借入・増資などの入金額 -設備投資 -借入・社債返済 -配当・自社株買い -買収対価・その他確定支出 =概算期末現金

加算するのは、実行を見込む調達の入金額だけです。未使用の融資枠はまだ現金になっていないため、概算期末現金には入れず、流動性の余力として別に把握します。融資枠と、その枠内で実行する調達予定を両方加えると二重に数えることになります。枠内で実行すれば、その分だけ未使用枠は減ります。

弱気シナリオでは、売上減少、在庫増加、回収遅延、金利上昇、調達難を反映します。

ステップ10 投資仮説へ落とし込む

最後に、数値を文章へ変換します。

「営業CFがプラスだった」で終わらず、どの要因が持続し、何が反転しうるかを書きます。

キャッシュフロー分析で使う主な指標

指標計算式主な用途注意点
営業CFマージン営業CF÷売上高売上を現金へ変える力業種・運転資本で差が大きい
営業CFコンバージョン営業CF÷純利益利益の現金化一時的運転資本で変動する
FCFマージンFCF÷売上高売上に対する自由資金FCFの定義を統一する
設備投資比率設備投資額÷売上高投資負担維持・成長投資を区別する
設備投資倍率設備投資額÷減価償却費投資局面の把握資産価格・M&A・リースの影響
営業CF有利子負債倍率有利子負債÷営業CF返済負担の目安景気循環と現金保有を考慮する
営業CF利息カバー営業CF等÷利息支払額利払い余力税・運転資本の影響がある
配当カバー営業CFまたはFCF÷配当支払額配当余力投資計画と負債返済も見る
株主還元カバレッジ維持更新投資後FCF÷(配当支払額+自社株買い支出)還元の持続可能性単年度の余剰現金利用を区別する
設備投資カバレッジ営業CF÷有形・無形固定資産取得支出設備投資を営業CFで賄えているか1倍割れが続く場合は調達手段を確認する
現金ランウェイ現金÷年間資金流出額赤字企業の存続期間の目安支出増減・調達可能性を反映する

指標に全業種共通の絶対的な合格基準はありません。同じ企業の過去、同業他社、景気サイクルを通じて比較します。

営業CF有利子負債倍率

有利子負債を営業CFで割ると、単純化すれば何年分の営業CFに相当する負債かを確認できます。

営業CF有利子負債倍率=有利子負債÷営業CF

有利子負債300億円、営業CF100億円なら3倍です。しかし、営業CFを全額返済へ回せるわけではなく、設備投資、税金、配当、運転資金も必要です。景気のピーク時だけの営業CFを使うと返済能力を過大評価します。

現金ランウェイ

営業CFが赤字の企業では、現金が何年持つかを概算します。

現金ランウェイ=利用可能な現金÷年間の資金消費額

分母の資金消費額には、新規の借入や増資による入金を含めません。含めると、資金消費が改善したように見えてしまいます。年間80億円を消費している会社が70億円を調達すれば、現金の減少額は10億円ですが、事業が使っている資金が10億円に減ったわけではありません。

現金120億円、新規調達を含めない年間の資金消費が60億円なら、単純計算で2年です。

120÷60=2年

設備投資や約定返済を分母に含めるかどうかは、あらかじめ決めて書き残します。開発段階の進行や資金調達費用によっても消費額は変わります。最低限手元に置く現金も必要なため、実際に使える期間は短くなる可能性があります。

キャッシュフロー分析用メモのひな型

企業ごとに次の形式で記録すると、決算ごとの変化を追いやすくなります。

【会社名・証券コード】
【対象期間・会計基準】
【連結範囲の重要な変更】
【利息・配当の分類方針】

1. 営業CF
・金額/前年同期比:
・純利益との比率:
・主な非資金項目:
・売上債権:
・棚卸資産:
・仕入債務:
・契約資産・契約負債:
・法人税・利息の影響:
・一時要因:

2. 投資CF
・設備投資:
・維持投資/成長投資:
・ソフトウェア・開発投資:
・M&A:
・資産売却:
・その他金融投資:

3. 財務CF
・借入/返済:
・社債:
・増資:
・配当:
・自社株買い:
・リース返済:

4. FCF
・営業CF+投資CF:
・営業CF-設備投資:
・調整後FCF:

5. 流動性
・期末現金:
・有利子負債:
・12か月以内の返済:
・融資枠:
・使途制限現金:

6. 判断
・持続可能な現金創出源:
・一時的な改善・悪化要因:
・資金不足リスク:
・次回確認するKPI:
・投資仮説を見直す条件:

キャッシュ・フロー計算書の詳細チェックリスト

前提条件

現金及び現金同等物

営業活動によるキャッシュ・フロー

投資活動によるキャッシュ・フロー

財務活動によるキャッシュ・フロー

フリーキャッシュフローと資金余力

総合判断

すべてにチェックが付かなければ投資できないという意味ではありません。確認できていない不確実性と、それによって生じるリスクを認識するための一覧です。

キャッシュ・フロー計算書に関するよくある質問

営業キャッシュフローがプラスなら良い会社ですか

プラスであることは、本業や営業活動に関連する取引から現金を得たことを示しますが、それだけで良い会社とは判断できません。

仕入債務の増加、前受金、在庫削減などによる一時的な改善もあります。また、営業CFがプラスでも、維持投資、借入返済、利払いを賄えない場合があります。複数年の推移と内訳を確認します。

営業キャッシュフローがマイナスなら危険ですか

必ずしも危険とは限りません。急成長に伴う債権・在庫の増加、季節性、一時的な税支払いなどでマイナスになることがあります。

ただし、赤字と営業CFの流出が続き、現金残高や調達余力が小さい企業では資金不足リスクが高まります。原因、継続期間、現金ランウェイを確認します。

投資キャッシュフローがマイナスなのは良いことですか

成長投資を行っている可能性がありますが、マイナスなら自動的に良いとはいえません。

必要な更新投資か、収益性の高い成長投資か、過大なM&Aかによって評価が異なります。投資後の売上、利益、ROIC、営業CFを追跡します。

投資キャッシュフローがプラスなら資産を効率化したということですか

不要資産や事業の売却による合理的な流入の場合があります。一方、資金繰りのために収益資産を売却した、設備投資を先送りした可能性もあります。

売却した資産、売却益、将来利益への影響を確認します。

財務キャッシュフローがプラスなら資金繰りは安全ですか

借入れ、社債発行、増資などで外部資金を得たことを示す場合が多く、返済義務や希薄化を伴います。

調達後の現金残高、資金使途、返済期限、金利、株式数の増加を確認します。

純利益と営業キャッシュフローはどちらが重要ですか

両方が重要です。

純利益は発生主義に基づく期間損益を示し、営業CFは実際の現金の動きを示します。利益が将来の現金流入へつながるかを評価するには、両者の差を調べます。

EBITDAと営業キャッシュフローは同じですか

同じではありません。

EBITDAは一般に利息、税金、減価償却費などを控除する前の利益指標で、売上債権、在庫、仕入債務、税金の支払いなどを反映しません。営業CFはこれらの現金変動を含みます。

また、EBITDAの定義は企業や情報提供者によって異なる場合があります。

減価償却費を加算するなら、その全額を自由に使えますか

使えるとは限りません。

減価償却費は当期の現金支出を伴わないため間接法で加算されますが、事業を維持するために設備更新が必要です。減価償却費をすべて余剰資金とみなさず、維持投資を差し引きます。

フリーキャッシュフローの正しい計算式はどれですか

目的によって定義が異なります。

簡便には「営業CF+投資CF」や「営業CF-設備投資額」が使われます。企業価値評価ではFCFF、株主価値評価ではFCFEを用いることがあります。計算式と含めた項目を明示し、同じ定義で比較します。

営業CFが純利益より大きければ利益の質は高いですか

一つの目安にはなりますが、機械的には判断できません。

減価償却費が大きい設備産業や、前受金が多い事業では営業CFが純利益を上回りやすくなります。仕入債務増加など一時要因による場合もあります。複数年累計と事業構造を確認します。

貸借対照表の現金及び預金と期末の現金同等物が一致しないのはなぜですか

預入期間の長い定期預金、使途制限預金などが現金同等物に含まれない一方、取得日から満期までが短く換金容易な有価証券などが含まれる場合があるためです。

企業が開示する「現金及び現金同等物の期末残高と貸借対照表に掲記されている科目の金額との関係」を確認します。

貸借対照表の増減からキャッシュフローを計算できますか

概算の手がかりにはなりますが、正確には計算できません。

企業買収、為替換算、非資金取引、減損、科目振替、連結範囲変更が含まれるためです。正式なキャッシュ・フロー計算書と注記を使用します。

設備投資額はキャッシュ・フロー計算書のどこにありますか

一般に投資CFの「有形固定資産の取得による支出」などに表示されます。ソフトウェアやその他無形資産は別科目の場合があります。

決算説明資料の設備投資額は発注・検収・会計上の取得額を示し、キャッシュ・フロー計算書は当期の支払額を示すなど、集計基準が異なる場合があります。

子会社取得の支出額は買収価格と同じですか

同じとは限りません。

キャッシュ・フロー計算書では、取得対価から取得時に子会社が保有していた現金及び現金同等物を控除した純額で表示されるのが原則です。株式対価や条件付対価など、当期の現金移動を伴わない部分もあります。企業結合注記を確認します。

株式報酬はキャッシュフローへどう影響しますか

株式報酬費用は現金支出を伴わない範囲で、間接法の営業CFに加算されます。そのため、株式報酬が大きい企業では営業CFが利益を上回る要因になります。

ただし、株式数の増加による希薄化は残ります。営業CFだけでなく、完全希薄化後株式数や自社株買いも確認します。

配当金の支払いはどの区分ですか

日本基準では配当金の支払額は財務CFに区分されます。受取配当金や支払利息は、企業が継続適用する表示方法によって営業CF・投資CF・財務CFの区分が異なる場合があります。

IFRSでは適用時期と企業の主たる事業によって分類を確認する必要があります。特にIFRS第18号適用後はIAS第7号の分類ルールが変わります。

リース会計の変更で営業CFが増えたら、事業が改善したのですか

必ずしも改善していません。

従来営業CFに含まれていた賃借料の一部が、リース負債元本の返済として財務CFへ移ると、営業CFが増えて見えます。リース元本と利息を含む総支払額で適用前後を比較します。

第1・第3四半期にキャッシュ・フロー計算書がないのは問題ですか

制度上、省略が認められる場合があり、開示がないこと自体で問題企業とはいえません。

ただし、当該期間の営業CFを正確に把握しにくくなります。貸借対照表の変化、設備投資、借入金、適時開示を確認し、半期・通期の正式なキャッシュ・フロー計算書で検証します。

銀行や保険会社も営業CFで比較できますか

一般事業会社と同じ方法での比較は適しません。

金融資産・負債の増減が本業であり、営業CFが巨額に変動するためです。規制資本、流動性、信用リスク、資産負債管理などの業種固有指標を優先します。

まとめ

キャッシュ・フロー計算書は、期末の現金が増えたか減ったかを確認するだけの資料ではありません。利益がどの程度現金になり、その現金を何に投じ、不足分をどのように調達したかを分析するための資料です。

基本的な確認順は次のとおりです。

  1. 会計基準、対象期間、連結範囲、分類方針を確認する
  2. 期末の現金及び現金同等物と貸借対照表の現金を照合する
  3. 営業CFを利益、非資金項目、運転資本、税・利息に分解する
  4. 売上債権、棚卸資産、仕入債務などの回転日数を確認する
  5. 投資CFを設備投資、無形資産、M&A、金融投資、資産売却に分ける
  6. 財務CFから借入れ、返済、増資、配当、自社株買いを確認する
  7. 複数の定義でフリーキャッシュフローを計算する
  8. 一時要因を除いた持続的な現金創出力を考える
  9. 期末現金と今後の投資・返済・還元を比較する
  10. 次回決算で確認する項目を投資仮説へ記録する

特に注意したいのは、次の点です。

キャッシュフロー分析の目的は、「営業CFプラス・投資CFマイナス・財務CFマイナスが理想形」といった型へ企業を当てはめることではありません。成長段階、業種、設備負担、回収条件、資本政策によって適切な組み合わせは変わります。

重要なのは、どの取引が現金を生み、どの支出が将来の収益につながり、現在の資金調達を将来の営業CFで返済できるかを説明できる状態にすることです。

損益計算書、貸借対照表、財務注記、適時開示までつなげて読めば、増益という表面的な結果だけでは見えない資金の余力とリスクを判断しやすくなります。

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キャッシュ・フロー計算書の読み方を確認したうえで、決算書の残り2表もあわせてご覧ください。

使い方と免責

この記事は、日本基準を採用する一般的な事業会社の連結キャッシュ・フロー計算書の読み方を、企業会計審議会・企業会計基準委員会が公表している会計基準、国際会計基準審議会が公表する国際財務報告基準、および法令・取引所の開示様式にもとづいて整理したものです。記載内容は、作成・確認した時点の公式情報にもとづいています。会計基準や開示制度の変更により、実際の内容と異なる場合があります。本記事には、将来の事業年度から適用される会計基準の内容と適用時期を含みます。適用時期や内容は今後変更される可能性があるため、確認時点の公表資料もあわせてご覧ください。

本記事で用いた営業CFマージン、設備投資倍率、営業CF有利子負債倍率、現金ランウェイなどの指標は、会計基準や開示規則が定める表示科目ではありません。とくにフリーキャッシュフローには統一された計算式がなく、本記事でも複数の定義を並べています。他の資料の数値と比べるときは、どの算式で計算されたものかを確認してください。

また、利息及び配当金をどの区分に表示するかは企業が選択する会計方針であり、営業CFの金額はその選択の影響を受けます。企業間で比較するときは、採用している表示方法を確認してください。本記事の数値例に登場する企業はすべて架空であり、実在する企業とは関係ありません。

本記事は一般的な説明であって、投資の助言ではありません。特定の企業、銘柄、業種または取引を推奨するものではなく、将来の株価や業績を示すものでもありません。会計処理や表示方法は、採用する会計基準、業種、契約条件、重要性などによって異なります。最終的な投資判断は、読者ご自身が最新の決算短信、有価証券報告書、財務諸表注記、適時開示などの公式情報を確認したうえで行ってください。

参照した公式情報

会計基準の発行主体は、企業会計審議会と企業会計基準委員会で異なります。会計基準のURLは、企業会計基準委員会の会計基準検索システムに掲載されているページです。

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