解説
日本銀行のETF売却、年間3,300億円は簿価ベース——2025年3月末時点の時価では6,200億円程度
日本銀行のETF・J-REIT売却について、年間3,300億円程度という金額が簿価ベースであること、時価換算では6,200億円程度であることを示し、評価基準の取り違えで規模の印象が変わることを、公表資料2点の記載範囲だけで示す。
対象:日本銀行/ETFおよびJ-REITの処分の決定と処分の指針の実施日の公表/2025-09-19決定・2026-01-19指針実施
発生事実
何が決まったか
日本銀行は2025年9月19日、保有するETFおよびJ-REITを市場へ売却することを決定しました。この処分方針の決定は全員一致でした。
売却ペースは、当分の間、ETFが年間3,300億円程度、J-REITが年間50億円程度とされています。ここで落としてはならないのが、この金額が資料上「簿価ベース
」と明記されている点です。日本銀行はETF・J-REITそれぞれの脚注で、2025年3月末時点の時価に換算した場合の金額として、ETFは6,200億円程度、J-REITは55億円程度になると別途示しています。同じ脚注は、この売却額が東証プライム市場、東証REIT市場それぞれ全体の売買代金に占める割合を、いずれも0.05%程度としています。
売却の基本方針は三点です。第一に、市場等の情勢を勘案し適正な対価によること。第二に、日本銀行の損失発生を極力回避すること
。第三に、「市場等に攪乱的な影響を与えることを極力回避する
」ことです。二点目と三点目の文言には極力という留保が置かれており、いずれも結果を約束したものではない点に注意が必要です。
売却の方法としては、取引所市場で形成される価格にもとづき、時期の分散に配慮しつつ、各銘柄の保有割合におおむね比例的なかたちで売却するとされています。また指針では、受託者が、売却ペース等のもとで市場等の状況に応じ、日本銀行との間であらかじめ定めた一定の範囲内で売却額の一時的な調整を行うことができるとされています。そのうえで資料は「特に」として、価格指数が著しく下落した場合には売却の一時停止を行うことができる、と続けて置いています。いずれも行うことができるという規定であり、義務づけられているわけではありません。
前提となる経緯も確認しておきます。ETF等の新規買入れは2024年3月の会合で終了が決定されており、金融機関から買入れた株式の処分は2025年7月に完了しています。また、2019年12月に導入されたETFの貸付制度については、今回と同じ2025年9月19日の決定で、その利用状況等に鑑み停止することとされました。
そして開始時期についてです。日本銀行が定める「指数連動型上場投資信託受益権等の処分の指針
」は、2025年9月の会合で制定が決定され、その実施日を2026年1月19日とすることが、2026年1月16日に公表されました。ここは表現に注意が要ります。公表資料が述べているのは指針の実施日であって、初回の売却の執行日ではありません。2025年9月19日公表の資料は、処分にかかる受託者を選定したうえで、所要の準備が整い次第、処分を開始する予定である
とも述べています。指針が実施される日と、実際に売却が始まる日は、資料の上で別のものとして扱われています。
市場の反応
該当しません
本記事は日本銀行の資産処分方針を扱っており、特定の銘柄や発行体を対象としていないため、市場の反応は本記事の対象外です。当媒体は価格データを取得していません。
投資家への意味
この決定をどう読むか
第一に、規模を絶対額ではなく市場全体に対する比率で見る、という読み方があります。年間3,300億円という数字だけを見ると大きく感じられますが、日本銀行が売却の規模を説明する際に併記しているのは、市場全体の売買代金に占める割合が0.05%程度という相対比率です。市場のなかでどれくらいの大きさなのかを捉えるには、絶対額よりもこの比率のほうが手がかりになります。
第二に、簿価と時価という二つの見え方の違いです。今回のETFの売却ペースは、簿価では年間3,300億円程度ですが、2025年3月末時点の時価に換算すると6,200億円程度になります。同じ一つの売却について、どちらの評価基準で見るかによって、示される金額が変わるということです。そして日本銀行は、この時価に換算した金額が、金融機関から買入れた株式の処分ペースとおおむね同額になると説明しています。つまり過去の売却との規模の比較が成り立つのは時価に換算した側であり、簿価の数字をそのまま過去の実績と並べると、比較の土台がずれます。決算数値や運用報告を読む場面でも通じる、基本的な読み方の練習といえるでしょう。
第三に、この枠組みには可変の要素が組み込まれています。売却ペースは金融政策決定会合で見直される可能性があり、価格指数が著しく下落した場合の一時停止は、受託者が行うことができる措置として置かれています。あらかじめ確定した固定スケジュールとして受け取るのは、資料の記載からは適切ではないと考えられます。
次の確認事項
- 金融政策決定会合の公表文——売却ペースの見直しに関する記載の有無を確認します。
- 処分の指針の本文および日本銀行が公表する関連リリース——実施内容の変更の有無を確認します。
- 日本銀行が定期的に公表する財務・保有資産関連資料——実際の処分状況に関する記載を確認します。
本記事が確認した範囲
本記事が確認した範囲と、資料から判断できないこと
本記事が確認したのは、2025年9月19日公表の資料(本文、別紙のETFおよびJ-REITの処分について、および別添の処分の指針)と、2026年1月16日公表の実施日に関する資料の二点です。記載した数値・方針・日付は、いずれもこの二資料に基づいています。
一方、以下は上記資料からは判断できません。2026年1月19日以降に処分が実際に開始されたかどうか、実際の売却実績、受託者が具体的にどの主体であるか、年間が暦年か年度かの区分、価格指数の著しい下落の具体的な基準、あらかじめ定めた一定の範囲の具体的な内容、ETF・J-REITの保有残高、および売り切るまでに要する年数です。保有残高が示されていない以上、完了時期を推計することは本記事では行いません。
また、時価換算の6,200億円程度・55億円程度という数値は2025年3月末時点の換算であり、現在時点の時価を示すものではありません。簿価が具体的にどのように算出されているかについても、上記資料には記載がありません。売却が株価やREIT価格に与えた影響についても、当媒体は価格データを取得しておらず、本記事では扱いません。
留保事項
- 本記事が確認しきれなかった点
- 株式の処分が完了した時期は、資料では「本年7月」と記されています。本記事はこれを、資料の日付である2025年9月19日から2025年7月と読み替えています。
一次情報
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日本銀行
当面の金融政策運営について(別紙「ETFおよびJ-REITの処分について」)
この資料に基づく記述(18件)
- 本文2. 2025年9月19日、日本銀行は保有するETF・J-REITの市場への売却を全員一致で決定した。
- 別紙 当分の間、株式売却と同程度の規模(市場全体の売買代金に占める割合は0.05%程度)で売却するとされた。
- 別添 指針2.(1)イ ETFは年間3,300億円程度のペースで売却するとされた。
- 別添 指針2.(1)ロ J-REITは年間50億円程度のペースで売却するとされた。
- 脚注3・4 売却ペースは簿価ベースで示されている。
- 脚注3 ETFの時価換算は2025年3月末時点で6,200億円程度で、株式の処分ペースとおおむね同額、東証プライム市場の売買代金比は0.05%程度とされている。
- 脚注4 J-REITの時価換算は55億円程度で、東証REIT市場の売買代金比は0.05%程度とされている。
- 別紙(基本要領の引用) 処分の基本方針の二点目は、日本銀行の損失発生を極力回避することである。
- 別紙(基本要領の引用) 処分の基本方針の三点目は、市場等に攪乱的な影響を与えることを極力回避することである。
- 別紙3. 売却は取引所価格にもとづき、時期の分散に配慮し、各銘柄の保有割合におおむね比例的に行うとされた。
- 別添 指針2.(2) 受託者は、あらかじめ定めた一定の範囲内で売却額の一時的な調整を行うことができるとされた。
- 別添 指針2.(2) 後段 特に、価格指数が著しく下落した場合には売却の一時停止を行うことができるとされた。
- 別紙 受託者を選定したうえで、所要の準備が整い次第、処分を開始する予定とされている。
- 別紙 なお書き 処分開始後、金融政策決定会合で売却ペースを見直すこともありうるとされている。
- 別紙冒頭 2024年3月の会合でETF等の新規買入れの終了が決定された。
- 脚注1 金融機関から買入れた株式の処分は2025年7月に完了した。 留保:株式の処分が完了した時期は、資料では「本年7月」と記されています。本記事はこれを、資料の日付である2025年9月19日から2025年7月と読み替えています。
- 脚注2 2019年12月に導入されたETF貸付制度を、その利用状況等に鑑み停止することとされた。
- 別添 附則 指針は総裁が別に定める日から実施するとされている。
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日本銀行
「指数連動型上場投資信託受益権等の処分の指針」の実施日について
この資料に基づく記述(3件)
- 本文 指針の名称は「指数連動型上場投資信託受益権等の処分の指針」である。
- 本文 指針の制定は2025年9月18・19日の会合で決定された。
- 本文 指針の実施日を2026年1月19日とすることが公表された。
出典の原文は各リンク先にあります。本記事は原文の全文を掲載していません。